あれから過ぎた長い年月。

幾度も季節は巡り、国は新しい体制へと変わってゆく。

目まぐるしく変化する日常。

俺たちが目指したものは其処にはない。




けれども




俺は…―――――掛け替えのないものを手に入れたから。

























「誓い」


























「鈴花、これも頼む」

「はい」


斎藤の手の中にあった菊の花束が鈴花へと手渡された。

――――静かな、雑木林の中。

聞こえるのは風が舞って揺れる木の葉と二人の足音。

どちらともなく、互いに伸ばした手が絡み合い、お互いの体温を確認する様に握り締めあう。

すっかりと花は散り、青々とした木々が二人を歓迎しているのだろうか。

夏先に、浮かぶ太陽。

木漏れ日の中、うっすらと二つの影を生み出しながら久しぶりに訪れるその場所へと足を急がせた。




最期の事を知ったのは戊辰戦争が終わりを告げ、斗南へ渡ってしばらくの頃。




近藤勇は斬首、土方歳三は討死。沖田総司病死。

夢は破れ、はかなく散っていった数多の命。

自刃、粛清、敵対…。

鈴花は歩きながら昔の事を頭の中に過ぎらせてゆく。

女としてではなく、一人の隊士として生きたあの頃。

まさかその時は生涯の伴侶を得る事など夢にも見ていなかっただろう。

それは彼、斎藤も同じで。

鈴花の手をしっかりと握ったまま沈黙を紡いで歩く。

多々蘇る鮮明な過去。

其処へ近づけば近づくほどに強烈に焼きついた過去を思い出してゆく。

戦場に生きる意味を見出していた斎藤にとってまるで鈴花はその戦を勝利へと導く女神のような存在。

彼が現在(いま)まで生きることを、戦い抜くことを強く熱望したのは

彼女との未来を願い、夢見たからこそ。

現に戦い抜き、二人は此処に在る。

そして二人で得た幸せは最初から二人で築き上げたものではなかったから、

だからこそ。















「…遅くなりました、近藤さん」


何もない、その場所で斎藤は言葉を零す。

そして手に持っていた菊束を目の前に立ちはだかる巨木の根元へと置いた。

鈴花もまた、続いて置く。


今は跡地となったこの場所で斬首された近藤。

土方も、死したのは蝦夷の国でも心は近藤と共に在るはずだ、と二つの菊を見つめる。


斎藤と鈴花が夫婦になった事を生きているうちに知ってくれたなら

彼らは喜んでくれただろうか。

彼ら二人だけではない。この現在(いま)の礎となった多くの仲間達も。

まだ握り合ったままの手は離されることはなく。


「近藤さん、桜庭は……、鈴花は俺が一生護ります」

「……一、さん…」

「俺は剣で貴方に勝てなかった。だが、鈴花を愛する気持ちは誰にも負けない。」


答えのない菊束に向かって斎藤は続ける。

代わりに返ってくるものは鈴花の掌のぬくもり。


「鈴花」

「はい?」


突然向けられた自分への呼び声に一瞬戸惑いながらも返事をし、

鈴花は斎藤の方へと顔を向けた。

同時に突然腕に抱かれ、強引に引き寄せられる唇。

拒否を許さない、唇の繋がり。

息もできないほどの口付けがどれくらい続いただろうか。

ようやく開放されると驚きの隠せない瞳を真っ直ぐに斎藤にぶつける。


「な、何するんですか!こんなところで!」

「こんなところ、だからだ。」

「…えっ」


斎藤は静かにそう呟くとその場に跪き、菊束に祈るよう手を合わせた。


「俺たちはこの世で幸せになる。だからあなたも…あなたたちも其方で幸せでいてくれ」

「…一さん…」

「…鈴花。俺はお前を一生離さない」

「………………」

「だからお前も誓ってくれないか。皆の前で、生涯俺と共に在る、と」

「……え……」


瞳を伏せ、跪いたまま呟くとそれ以降は言葉を止めた。

鈴花はようやく斎藤の意図を理解するとほんの少し照れた様に苦笑しながら

彼と同じ様に隣に跪く。

言葉に詰まった様に黙ったままで。

だが暫くすると大きく深呼吸を繰り返し、ちらりと斎藤の方を盗み見る。

そして手を合わせて菊へ視線を戻して瞳を閉じた。


「…私、幸せです。近藤さんに、新選組の皆さんに大切にしてもらえて。一さんに愛してもらえて。

これから先、先に逝ってしまった皆の分まで生きてゆきます。一さんと共に」



二人とも、しばらくそのまま沈黙を紡ぐ。







――――ようやく果たされた約束。




『斎藤くん、彼女を頼むぜ?』

『…言われなくとも』




あの日、あの時、あの場所で誓った言葉。

交わした約束。




長い月日が流れた今、ようやく斎藤の中に押し込まれていた誓いを果たすことができた。

彼女を、幸せにしよう。

そして、幸せになろう。

手を合わせ祈る生涯の伴侶をちらりと横目で見ながら、斎藤は微笑みを浮かべた。



















木漏れ日はそんな二人をいつまでも温かく包み続ける。

それはまるで

旅立った仲間達からの祝福の様に。












愛するみっちさんの所で、20000Hitのフリー創作だったのを頂きました。
局長の前で永久の愛を誓う・・・。素敵よ、ハジメ・・・・!!
みっちさん、ありがとう・・・・!!



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