知ってしまえば逃げられない。

覚えてしまえば・・忘れられない。





感情の理由



言うつもりもない事を言って、泣かせてしまいたくなる。
馬鹿なのか何なのか解らないが、俺はこの感情の意味を知らない。




桜庭。」

「副長?何でしょうか?」

「悪いがこの書を近藤さんまで届けてくれないか?」

「局長にですか?でも目と鼻の先ですよ?」

「俺はこれから所要で出なきゃならん。つべこべ言わずに届けろ。」

持っていた書類が 鈴花の手に乱暴に渡る。

「・・・承知致しました。」

それを乱暴に受け取る 鈴花。

「お前・・最近俺に態度悪くないか?」

「悪くなんかありません!!副長の気のせいじゃないですか!?
それじゃ私は届けなければならないの、失礼致します!」

廊下の隅で行われていた会話。俺は付近の巡察帰りで、
丁度報告書を提出しようと思い副長室へと足を早めている所だった。
副長と 鈴花が随分と後親密な雰囲気で話をしていたのだ。

「・・・斉藤?」

暫くして副長が俺の存在に気付き、俺もやっと足を動かせる。
あちらも今のを見られたかと少し気まずい様子だったが、
俺にとっては何故副長が気まずいと思うのかが不思議だった。

「報告書の提出に参りました。」

「あぁ、ご苦労。」

「・・・・」

「・・・・」

気まずい。俺も俺だ。何故早々に引き上げない。
考えとは裏腹に足は地にへばり付いたままだ。

「・・斉藤・・・・・お前見ていただろ?」

「・・・」

「女子は口達者だからな。お前からよく教育しておけ。」

副長は俺とアイツがそういう仲だと言う事を知っている。
だからこその台詞だ。

「・・はぁ・・・・・。」

「そんな所も可愛っちゃ可愛いんだが・・どうにもはちきんは困る。」

才谷さんの言葉を真似して笑いながら報告書を受け取る。
滅多に笑顔を見せない副長が、柔らかく笑っている。

「それにしては、とても楽しそうに戯れていたと存じますが?」

「俺が?はん!ふざけんな。誰があんな小娘と。」

報告書を片手に腕組みをしながら目を瞑る。
俺は知ってますよ・・その仕草が羞恥からくるものだと。

「物は言い様ですね。」

「あのな、俺は童女趣味じゃねぇんだよ。」

「それもまた・・・然りです。」

「・・何だ斉藤?今日はやけに突っかかって来るじゃねぇか。
多大な期待を寄せられてる所悪いんだが、アイツとは何もないぞ?」

「・・・・・報告書は提出しました。失礼致します。」

質問に応答する事無く俺はその場を去る。
土方さんの笑い声が何時になく癪に障ったが、
それすらも無視だ。気にかける必要性が感じられない。
堂々巡りの言葉を頭に巡り巡らせて、俺は自室へと戻る。
部屋の戸を引いてその場にあった衣膳に対服を投げ入れる。
暫くして外の風景も色を変え時間が結構に過ぎた頃、
声掛けもないのに静かに戸が引かれた。

目に映るは不愉快な浅葱のダンダラと、
それをあまりに似合わない香の色をした髪を持つ女子。

「・・声掛けもしないとは、少し無粋じゃないのか?」

「すみません・・・。」

「用は何だ?手短に言わないと、お前これから巡察だろ?」

「・・・・・用は・・特にない・・・・ですけど・・。」

「なら帰れ。俺は今日疲れてるんだ。」

そう言って布団に入り背を向ける。
冷たい事を言っているのは自分でも自覚していた。
ただ胸が疼いて疼いてどうしようもなかったから、
こうして気を紛らわしていた。不思議とコイツにこういう態度を
とればとる程に俺の疼きは和らいでいった。

「・・何か・・・・・・怒ってらっしゃいませんか?」

「・・・怒ってなどいない。」

「でも!・・・私の目・・見てくれないし・・・・・。」

「見る必要がないからだ。」

「!?どういう意味ですか!?何でそんな酷いこと言うの!」

大声を出された事に驚いたわけじゃない。
驚いたのはあんなにも人に涙を見せないコイツが
いとも容易く俺にその姿を見せたからだ。

「!? 鈴・・・お前何泣いて」

「斉藤さんが分からず屋でしょ!!」

泣いて大声出しながら思い切り俺の胸を叩く。
全くもって痛くはないし、痒くもない。

「と、とにかく落ち着」

「落ち着いてなんかいられません!」

鈴・・」

叩く手を握り諭すように囁く。一瞬顔が赤くなったかと思うと、
俺を見上げて更に赤くし顔を思い切り逸らす。

・・・・・・可愛い。

俺はそう思い緩む顔を抑える事無く、 鈴花の顔を真正面に向かわせる。
頬に手を当てるが直ぐに跳ね除けられる。

「・・・ 鈴花・・」

「・・・・・はっきり言って下さい。」

「・・え?」

「何で怒っているのか・・はっきり包み隠さず言って下さい。」

もう一度頬に手を当てる。今度は跳ね除けはされなかったけど、
その代わりに潤んだそれで思い切り睨まれたが、
俺はそれに構う事無く静かに状況を話す。

「怒っては・・・いない。」

「まだそんな」

「いや・・それは本当の事だ。怒ってはいない。」

「・・・・」

「自分でも解らないが、お前が副長といると苛苛と疼く。」

「!?え・・苛苛と疼くって・・・・・それじゃ」

「???何だ?何か特別な病か何かなのか?」

俺が苛苛と疼くと言った途端、 鈴花の表情は明るくなり
睨んでいた瞳からこれ異常ないほどの笑みが零れる。
・・・・・・・・何故だ?

「さっいとーうさんvVV」

「な、何だ・・・お前急に」

「も〜う!大好きvv」

背中に自然と手が回されたので、俺も 鈴花の背中を抱き締めた。
急に上機嫌になった 鈴花を手前にして、
俺はまだ状況も心境も掴めていなかった。
でも・・段々と疼きは消え、俺の胸には欲が沸々と湧き上がる。
我慢が出来ないわけではないが、この闇の中埋もれてしまうのも
いいだろうっとすかさず口付けを施す。

「ん・・んぅ・・・・」

「・・・・・」

暫く味が正常なのを確かめて、俺は帯に手をかけた。
羽織などは直ぐに放ってしまっていて、
乱れた衣達がその辺で行く場をなくしている。

「え・・斉藤さ・・・私これから巡さ」

「いい。今日は欠勤だ。」

「・・・・・副長に怒られちゃう・・。」

「案ずるな。怒られるだなんて余裕じみた事は言えなくなる。」

「!?」

肌と肌が触れ合ったら・・
余裕じみた台詞はこれ以後出なかったとか・・・・・。


















その夜


「あ? 桜庭はどうした。アイツいねぇのか?」

「それが・・何処かに用があるとかで」

「・・・まさか・・・・・・・」

「永倉先生?」

「・・あ・・・いや何でもねぇ。アイツは欠勤だ。行くぞ。」

「え・・?探さなくて」

「いいんだよ!ったく野暮野郎共め!行くぞ!!」

「は、はい!!」











原田さんの協力の下、俺と 鈴花は違いを直す事が出来た。
無論、胸の疼きが何なのかは未だに解ってない。















ただ知ったのは・・それは誰にでもある感情だと言うこと。










そしてそれを向けられる相手がいるという事は































とても幸せな事・・・それだけだ。







FIN





〜おまけ〜




翌日、新八が報告書を提出した時のこと。



「新八・・ 桜庭の名前が見当たらねぇみてぇだが?」

「・・・・・」

「無断欠勤なんぞしたんじゃねぇだろうな?」

「・・・・・」

「んでもってお前・・・・・・
その旨俺に伝える前に処理しやがったわけじゃねぇよな?」

「無断欠勤・・せざるを得ねぇだろうが。」

「・・・あ?どういう意味だ。」

「・・・・・姿が見当たらねぇって事は自室にはいねぇ。」

「・・・・」

「平隊士部屋にもいねぇ・・厠にも風呂にもいねぇ。」

「・・おい・・・・・まさかアイツ・・」

「・・・土方さんの思った通りでいいと思うぜ。」

「・・・・そうか・・なら仕方ねぇな。」

「あんだ〜?随分優しいじゃねぇかよ・・何かあったのか?」

「・・いいんだ。お前の気にする事じゃない。下がっていいぜ。」

「??あぁ、んじゃあ宜しくな。」



スー・・パタン。



「・・・俺のせいか?」








FIN



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