巡る季節
〜斎藤家の節分〜








「はい、父上」

 ぽん。
 息子に手渡されたものを斎藤はじっと凝視した。
 赤い顔に、金の巻き毛。頭上には二本の角が生え、大きな口にはキバがある。
 これは、もしかして――。

「鬼?」

 不思議そうに呟く斎藤に、息子はにっこりと笑う。
 それが肯定の証。鈴花譲りの愛らしい顔で、彼は言った。

「父上、鬼になってください」
「……は?」

 本日は節分なのだと、息子は言う。
 しかも、節分に家族が揃うのはどうやら初めてのことなのだと。
 せっかくなのだから、鬼の役をやってくれ、と。

「……お前は、父に豆を投げる気なのか?」
「……母上に投げても良いのですか?」

 息子の切り替えしに、斎藤は慌てて首を振った。
 最愛の妻に豆を投げるなど、彼に出来るはずもない。
 その答えに、息子は当然のように頷く。
 父が不在の時の節分は、必ず母が鬼役をしてくれた。
 幼い時はそれでも楽しくやっていたのだが、年を重ねるにつれ息子はそれがひどく心苦しくなった。

 今年は自分が鬼をしようか。しかし、母はそれを許すだろうか、とそう思っていた矢先に今年の節分は、父が家にいるという朗報が入ったのだった。。
 こんな好機を逃すわけにはいかないだろう。

「母さんに投げるわけにはいかんが……それにしても……」
「では、父上は僕に鬼をやれと?」

 父が帰って来なければそうするつもりではあったのだが、あえてそうそう切り返す。
 じっと父を見つめれば、彼が怯むのがわかった。
 斎藤家の一人息子の顔立ちは、斎藤一の最愛の妻にそっくりなのだ。

「……父上の投げる豆は、痛そうですね……」

 とどめとばかりに、ふぅっとわざとらしく溜息をつく。
 自分の価値をよく分かった上での言動。実直な斎藤と、素直な鈴花からは出来得ない作戦だった。

 息子の脳裏には、にやにやと笑う両親の友人の姿がある。
 赤い髪のその人は、彼が大きくなるにつれて色々なことを教えてくれた。
 剣の使い方、世の中の渡り方。
 そして、一番大事だと彼が言ったのは。

「ハジメの、扱い方」


 かくして斎藤家の大黒柱は、渋々ながらも鬼の面を受け取ることとなった。


「え?ほ、本当にお父様が引き受けて下さったの?」
「本当ですよ。ねぇ?父上」
「……ああ……」
「は、一さん、私がやりますよ……?」
「いや、いい。これも家長の務めだ」
「家長の務めってそんな大げさな……」

不安そうな鈴花に豆の用意を促し、斎藤は面を被ったのだった。


「父上、行きますよー!!」
「……ああ……」

 鬼はーそとー!
 息子の元気の良い掛け声と共に、今年の豆まきが始まった。

「………………っ!」


 新選組時代、三番隊組長が豆を投げられる姿など、誰が想像出来ただろう。
 そして、後日その話を心待ちにしていた、二番隊組長が腹を抱えて大爆笑している姿など、一体誰が想像出来ただろうか。







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