力の入らない鈴花の体を抱き上げると、その体は昔同じように抱き上げた時よりも随分と軽くなってしまっている。
 それが彼女との間にあいてしまった時間のような気がして、永倉はたまらずその姿勢のまま、唇を合わせた。
 再会してから、何度も交わした口付け。
 鈴花は、たどたどしくではあるが永倉の情熱的なそれに応えるようになっていた。
 今もとろんとした表情のまま、その唇だけは意志を持って動いている。

「……たまんねぇな……」

 双眸を細め呟き、鈴花がその言葉の意味を聞き返すより早く、腕に抱いた体を引きっぱなしの布団に降ろした。
 体を離すと、鈴花の手が永倉を追う。
 離れたくない、と。離してほしくない、と。

「永倉さん……」
「鈴花……鈴花……!」

 たまらず、かき抱く。
 華奢な手は答えるようにそろそろと背中にまわされ、着物をぎゅっと掴んだ。
 離すかよ……!
 言葉には出来ないほどの、強い想いが永倉の中に渦巻いた。
 何度も自分の手をすり抜けていってしまった愛しい存在。それが今、自分の腕の中で自分を求めている。
 万感の思いを込めて唇を重ねる。
 いや、それは正しくない。そんな優しいものではなかった。
 まるで貪るかのように、永倉の舌は狭い口腔内を自由に這い回る。
 
「ん……!ふ……なが、くらさ……んん……!」

 苦しそうに名を呼ばれたが、そんなことで口付けをやめるつもりはなかった。
 それどころか、重ねた唇は激しさを増していく一方だ。
 そしてその激情そのままに、永倉の手が荒々しく鈴花の着物の帯を解いた。
 口付けに翻弄されている彼女は、そのことにまだ気づかない。
 紐を解くのも煩わしく、その手は袷を暴いていった。
 しっとりとした肌が、無骨な掌に吸い付く。
 柔らかな、けれどそれだけではない鈴花の肌。
 すべらかな感触の中に、所々ある引っかかり。それは、彼女が新選組にいた証。
 無数の刀傷だった。
 それに、指を這わせる。
 すると。
 鈴花が、弾かれたように顔を上げた。

「や……!」
「鈴花?」
「いや……!見ないで……」
「……鈴花……?」
「見ないで、ください……」

 必死に、体を丸めようとする彼女を見ると、うっすらと涙を浮かべていた。

「……傷、だらけなんです……し、島原の太夫さん達みたいにきれいな体じゃ……」

 鈴花の言葉が終わらないうちに、永倉は傷跡の一つに口付けた。
 抵抗する手を押さえつけて、舌で傷口を辿る。
 
「あ……あ……!や、ながくらさ……!」
「きれいだ。おめぇの体は、きれいだ……」
「……うそ……!」
「嘘なわきゃねぇだろ……。この傷も、この傷も……。全部、おめぇが頑張ってきた証拠だ」
「永倉さん……」

 鈴花の目が、大きく見開かれる。
 腕の力も抜かれ、ぱたりと布団へ落ちた。
 その隙に、永倉は彼女の着物を肩から下ろす。
 そこには、他の傷など比べ物にならないぐらい大きく、そして引き攣れた傷があった。
 鈴花が、新選組から離れなければならなくなった、その傷。
 永倉は、そこへも口づけを落とした。
 何度も何度も、まるで癒すかのように。
 傷事態は癒えるはずはないが、癒したいのはこの傷によって深く抉れた心の銃痕だった。
 それが少しでも安らいでくれるよう、何度も口付けた。

「……永倉さん……」
「ん……?」
「こんな、私でもいいんですか……?」

 顔を上げれば、うっすらと上気した頬の鈴花がある。
 涙を浮かべた瞳で、自分でもいいのかと、そう問うていた。
 
「……おめぇがいいに決まってんだろ……!」

 もう、何度目かわからないぐらい交わした口付け。それでも、永倉の心は満たされない。
 離れていた時間の分だけ、彼女に触れていたかった。
 手がむき出しになってしまった胸へと掛かるが、もう鈴花の抵抗はない。
 そのまま、柔らかさを確かめるように触ると、彼女の体がぴくりと動いた。
 その先端へ指先を進めると、鈴花の体がまたぴくりと動く。
 彼女の反応が嬉しく、愛撫する手は更に加速する。
 両手で柔らかな胸を揉みしだき、その先端を口に含む。
 
「あ……あ、や……!ぅん……!」

 少しずつ、甘やかな声が漏れ始める。
 控えめなそれは、慎みを重んじる為だろうか。それが妙に悔しく、愛撫をする手に力がこもる。
 慎みなど、忘れさせてやりたい。
 永倉の片手が太腿を割り、するりとそこを撫で上げれば、鈴花の体が大きくしなった。

「や……!いや、永倉さん……!」
「嫌……なのか……?」

 意地悪く問えば、鈴花は答えにつまる。
 永倉とて、それが彼女の本心だとは思わない。
 
「嫌か?」
「……恥ずかしい……です……」

 涙を浮かべ、ぽつりとそう言った鈴花が愛しくて、貪るように唇に吸い付いた。
 急な口付けに鈴花が神経を向けた瞬間、永倉は一気に彼女の太腿を開きその中心へ指を滑り込ませた。
 固い蕾であることは間違いなかったが、それでもそこは永倉の愛撫を受け溢れるぐらいに蜜をたたえている。

「あ……!」
「……たまんねぇよ、鈴……!」
「あ、あ、あ……!いや、そんなとこ、ろ……あ……やん、さわ……らないで……!」
 
 自分から生まれ出る水音に、鈴花が激しく抵抗する。
 そんな事で永倉が止まるはずもなく、水音が大きくなるにつれ抵抗すら出来なくなるらいの快楽を教え込んでいく。
 そして永倉の指が彼女の中へ深く入りこむと、鈴花の目が大きく見開かれた。

「……っ……!」
「鈴花……」

 視点の定まらない目に、そっと口付ける。
 零れ落ちる涙は、快楽からか恥ずかしさからか。そのどちらであっても、彼としては嬉しい限りだった。

「鈴花……大丈夫か?」
「なが、く……ら、さん……」

 鈴花の手が、永倉の首にまわされる。

「なが……しん、ぱちさん……?」
「……!」
「新八さん……好き、です……」

 囁かれた言葉に、永倉の双眸が大きく見開かれる。
 好きです。
 その一言で、永倉の理性のいくつかが弾け飛んでいった。
 初めての行為であろう彼女に、それなりに気は遣ってやるつもりだった。
 けれど、ずっと焦がれていた女と一つになるという事は、長年押し込んできた感情を爆発させるには十分。
 もう鈴花が泣き声を上げても、止められそうになかった。
 鈴花の狭い胎内へ永倉自身を、押し入れる。
 苦しいぐらいの締め付けに、思わず達してしそうになり、ぐっと唇をかみ締めた。
 眼下には、自分以上に辛そうな鈴花の顔。
 痛いと、表情はそう言っているが口は動かない。
 ぐっとがまんしているのが、ありありとわかる。

「……わり、ぃ……。いてぇ……よな……」

 当たり前の事を聞く。
 それに、鈴花はふるふると首を振った。

「だい、じょうぶ……。うごいて……くださ、い……」
「……けど……」
「おねがい……します……」

 切ないその表情は永倉の最後の理性を、引きちぎった。

「あ……!は……、しん、ぱちさ……ああっ!」
「鈴花……鈴花……!」

 永倉の動きに合わせて揺れる、鈴花の白い体。
 二つの小さな膨らみがその存在を誇示しながら、震えている。
 思わず、その頂を口にすると、鈴花の体が反応を返した。
 
「あ、あ……!や……や……あああ……」
 
 とたんに、鈴花の声音が変わっていく。
 痛みだけではないその声に、永倉の体は更に熱くなる。
 焼けきれちまう……!
 あまりの快感に、永倉は心の中でそう叫んだ。
 それは鈴花も同じようで、永倉の背を痛いぐらいに掴んでいる。
 達してしまいそうな危機感の中で腕の中の彼女と目が合う。
 
「しん、ぱちさん……」
「すず……」
「嬉しいです……」
「……あ……?」
「ひとつに、なれて……うれし……」
「鈴花……!」

 目の前が、真っ赤に染まる。
 愛しい。
 そんなものでは、済ませられない。
 そして永倉は、びくびくと体を震わせる彼女の中に、自分の思いのたけを注ぎ込んだ。








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